20150609




4. 一審判決と二審判決の間①
一万二千字の手記

さて、4月13日に死刑判決が出た佳苗陣営は即日控訴した(聞くところによれば弁護士主導ではなく佳苗が一人で控訴の手続きをしたという)が、同時に朝日新聞に約一万二千字の手記を送り付けた。
さんざんブログを読んできた身にはいかにもな行動だとも思えるが、それでもその自己顕示欲にはあらためて驚かされる。
まして佳苗の裁判情報くらいしか知らない一般人にとっては、この厚顔ぶり、饒舌ぶりに呆気にとられたのではないだろうか。
全文はここで読めるが、読むのがつらい人のために要約すると、

・マスコミの報道は事実と違うことだらけである。
・今回の手記は朝日の女性記者との交流から生まれたもので、判決前に書いている。
・取り調べは過酷で人権を無視したものであった。
・取り調べが終了し裁判準備期間に500冊以上の本を読んだ。
・子ども時代はグルメで料理上手の両親に惜しみない教育費を使って育てられた。
・身体的にも精神的にも早熟だったため普通の価値観で生きることを諦めた。
・留置所、拘置所では孤独だったが今までの生き方を見つめ直す機会になった。
・応援してくれる人の存在はありがたい。
・取り調べの方法は再検討されるべきである。
・性的な証言は最小限に止めたつもりである。
・9人の弁護士にはお礼を申し上げたい。

話がいったりきたりしてわかりづらいが、基本的には上記の内容である。
詐欺事実のみを認め、殺人を否認しつつ死刑判決を受けた被告人の手記として一見まともに見えるが、やはり自己正当化、すり替えは目に付く。
例えば

>自分は加害者であるけれど、何かにおいては被害者であると分析できた時に、自分の抱える問題を解決するきっかけが訪れるはずです。

「はずです」というのは「私と同じような立場で、全国の留置場や拘置所等の施設で過ごしている人たち」に向けたようだが、上に立ってものを教えるような隙を少しでも見つけると書かずにはいられない佳苗の性格を物語る一文だ(女性誌的な言い回しを真似たともいえるが)。「何かにおいて被害者」というのもざっくりした話だが、殺人は認めないにしても詐欺事件の加害者であり、(彼女の筋書きによれば)自分への失恋の結果自殺した人が多数いるわけで、今これを書くか? と思わざるを得ない。

>健康第一です。体が健康でなくては、自分の罪や悪と深く正しく、目を逸らさずに向かい合うことはできないのではないかしら。ゆっくりと深呼吸すること、ストレッチングとマッサージで、頭皮から爪先まで肉体を柔軟にして、気、血、水の流れを整えること、清潔に留意すること、よく噛んでしっかり食べて、夜にきちんと眠ること、瞑想すること。これらを修行と考えて、毎日継続することで、私は心身共に健康を保っています。

被告人の佳苗は健康第一かもしれないがその前に「人が死んでんねんで!!」と突っ込むしかない。失恋して自殺したことにされてる人たちはストレッチングもマッサージもよく噛んでしっかり食べることもできない。

>罪についてばかり考えていると、何事も悲観的な見方に傾きがちになります。読書やヨーガをしたり、日記や手紙を書いたり、敢えて事件以外のことを考えたり、あるいは何も考えずリラックスする時間を作ったり、ラジオから流れる音楽に耳を澄ませたり、頭を切り替えて過ごすことで気持ちのバランスを取るように努めています。

いやいや、罪についてばかり考えてください、まじで。まあ刑務所じゃないので「拘置されてるだけだもん」と思ってるのかも知れないが、せめて数年は殊勝に過ごすのが道理ってもんじゃないのか。

>3月13日の法廷(注・最終弁論)で、弁護人の最終弁論を聞きながら、私は涙が溢れて止まらなくなりました。胸がいっぱいになり、被告人の最終陳述は涙ながらできちんと話せませんでした。この時私は、浄化されつつある自分を感じたのです。

浄化されるのは勝手だが、涙あふれて止まらなかったという報道はない。
例えば北原みのり『毒婦。』のそのときの記述はこうだ。

証言台に立った佳苗は数秒間沈黙した後に、声を詰まらせながら、語り始めた。
「……今までの人生を振り返り……間違った価値観に……気づかされました」
傍聴席に背を向けているから表情は見えない。が、明らかに泣き声だった。
(略)
佳苗は、時折、小さく「あんっ」と喘ぐような感じで声を引きつらせつつ、話した。あらためて、美声だと思った。女の泣き声を、私は初めてセクシーだと思った。
しかし、振り返った佳苗の顔に、涙の跡はみえなかった。席に戻った佳苗はいつものように無表情のまま、きれいな水色のハンカチで目と鼻をおさえていた。(北原みのり『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』より)

自分のファッションを含む外見(裁判中、午前と午後で服を替えていたくせに)や陰口を言う人間、同調圧力を揶揄しつつこんな一文を挟んでいるのも驚きだ。

>世間と同調することで、普通を確認しながら生きる人に、自分はあるのか。他人を誹謗中傷するあなたは、どれほど立派な人間なのでしょう。

世間と同調する人を誹謗するあなたはどうなんでしょうか。法律に触れるだけが罪じゃないにしても、泥棒が寝坊をあげつらっているような違和感がある。しかしこれすらも住人に喝破されている。


602 :可愛い奥様:2012/04/21(土) 15:59:17.57 ID:KOu95kBX0
    >私を中傷する人達、あなたたちはどれほど立派な人間なのか。
    >って説教たれる部分なんだけど
    これはただの美輪さんのパクリであって、力士の言葉ではありませんからね


>インターネットの普及と個人情報保護法の影響で、人間関係が稀薄になり、人と深く繋がることを苦手とし、真に成熟した大人が少ない世の中になっているようです。

おまえが言うか、通称「おまいう」である。インターネットの希薄な人間関係がなければ佳苗が大金をひっぱることもありえなかったのだ。詐欺被害者の証言では、メールは饒舌だけど会ってるときはほとんど喋らない人だったとか、お金の無心はなぜかメールのみだったとある。

>ご迷惑をお掛けした人たちには、申し訳なく存じ、深くお詫び申し上げます。

お詫びは「ご迷惑をお掛けした」ことのみ。「ご迷惑」とは誰の何を指しているのか一万二千字もありながら一言も触れられていないのはある意味、圧巻である。

とまあ好きなだけ突っ込んだが、実はわたしはこの手記を評価している。
発見された三つのブログ、自伝的小説、拘置所日記の全部のなかで、この手記が一番嘘が少なく(例えば北原氏も指摘しているが「朝日新聞についてはよく知りません」「今まで朝日新聞を読む機会がなかったのです」は嘘である)、内面を吐露しているからだ。
とくにこの部分だ。

>私は子供の頃から、誰に対しても深いところまで心や意識を開いてなかったので、他人にわかるはずがありません。

>屈折した奇妙な価値観を引きずったまま大人になり、自由奔放で浮世離れした暮らしがエスカレートし、ファンタジーの世界で生きることに逃避したのです。

>善悪の認識も欠如していたようです。自分の意識や体が創造する超越した絶対性に固執し続けるうちに、現実社会に対して関心が無くなり、大人としての自覚は鈍磨したまま年齢を重ねていきました。自分の内面の切実な問題を直視する勇気もなくて、業について考え出すと辛くなり、心を寂しく虚しくしていくばかりでした。

>体調を崩し、病院通いを続け、原因を取り除くことができない自分に呆れながらも、私は本当の自分をさらけ出して人と付き合うことができなかったのです。自分を持て余し、嘘をつくことが意識的なのか、無意識なのかもわからないほどに精神が破壊され、病んでゆくばかりでした。

>長年無意識に自分が蓋をしていた感情と向き合い、検証し、さらけ出すことは、勇気も努力も必要でした。私は、他人の気持ちを忖度できない人間だったということに、今まで自分自身が気付いていなかったことを恐ろしく感じました。心奥の暗闇に潜り、自分の悪の根源、歪んだ価値観、狂気を孕んだ不健全な魂を直視したことで、初めて自分自身を理解し、受け入れることができたのです。

たぶんに美化してはいるものの(そして他人事めいた書き方ではあるが)、長年蓋をしてきた感情や妄想癖(ファンタジーねぇ)について言及したり、嘘をつくことが意識的か無意識なのかわからない、と書いたことは佳苗にしては正直な内容ではないかと思う(「狂気を孕んだ不健全な魂」とは筆が滑ったのかわからないが、まさに狂気しか感じない事件ではあった)。
それは裏を返せば弱気になったとも言え、それだけ取り調べが過酷だったと思われる。
ヤフオク詐欺で裁判経験に自信のあった(と思われる)佳苗でも、やはり殺人での起訴は次元の違う世界だっただろう。
一応、手記を読んだ住人の反応も引いておこう。



259 :可愛い奥様:2012/04/15(日) 00:33:13.03 ID:Slt5/3fC0
    無罪設定のアテクシ手記だけど、被害者への哀悼の言葉すらないことで墓穴を掘った。
    私は皆さんのおっしゃるようなモンスターではありません、との弁明のつもりが
    皆さんのおっしゃるとおりのモンスターですと宣言したのがあの手記。



265 :可愛い奥様:2012/04/15(日) 00:40:44.72 ID:Xa6Q4n5A0
    >体のフィジカルな成長
    意味わかってなくて使ってるね
    アホやこいつ


272 :可愛い奥様:2012/04/15(日) 00:52:18.50 ID:tH6EZShS0
    本500冊とか映画700本以上とか相変わらず量をアピールするのが好きだね 


297 :可愛い奥様:2012/04/15(日) 01:58:36.74 ID:U+5vc3lG0
    ブログも手記も、ここはフカシだなと思った箇所は現実では逆な事が多そう
    なんとなーく、みっともない両親や家庭環境について知られるのが嫌そうね
    そこは特に意識して盛大にフカシました感が拭えないわ


付け加えるなら、この手記には住人たちにとって「秘密の暴露」ともいえる一節があった。

>私はいつもこのように考えています。何にでも、負けて諦めてしまったら終わりなのだと。

本人が「いつも」と書いているように、この座右の銘は今まで発掘されたさまざまなブログに書いてるのだ。


Q29 座右の銘は? 
諦めたら終わり
《桜さんに100の質問!@ぽっちゃりソープ嬢さくらのブログ☆出勤は謎☆》より

諦めたら終わりだと自分に言い聞かせているし、教育に携わる者は、 
諦めない人でなくてはできないと思っています。 
諦めが悪い人のほうが教育者に向いているのかもしれません。
《静岡のキウイフルーツ@かなえキッチン/ごはん日記2008.11.17》より

どんなことでも 諦めたら終わり ですからね。
《クロワッサンとバゲットを繰り返し作る日々@かなえキッチン/ごはん日記2009.7.24》より

A先生のことを思い出し、共に過ごした歯科医のAちゃんのことを思い出し、大人になってから、 諦めたら終わり なのだということを教えてくださったHさんのことを思い出した週末でした。
《ココナッツとココアの素朴なクッキー@かなえキッチン/ごはん日記2009.8.31》より


佳苗のどんな経験からこのモットーが導き出されたのかはわからないが、異様なまでの信念は感じる。
ともあれ、ぽっちゃりソープ嬢も佳苗のブログであったことをあらためて証明するかたちとなった一節だった(画像や弁当の内容のかぶりから本人のものだということははっきりしているが)。
さて、一審が終わったところで佳苗関連本が一気に出た。
順番は次の通り。

2012.4.30 北原みのり『毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版)発売
2012.5.25 佐野眞一『別海から来た女―木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』(講談社)発売
2015.5.31 高橋ユキ『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)発売
2012.6.1 神林広恵・高橋ユキ『木嶋佳苗劇場~完全保存版! 練炭毒婦のSEX法廷大全』(宝島社)発売

そして、時を同じくして佳苗も密かに自伝的小説をノートに認め出していたことが後にわかる。
とにかく書くことが好きで書いてるうちにアドレナリンがばんばん出てくるたちの佳苗は執筆さえしていれば「無聊に苦しむ」こともないのだろう。
常に何かに忙しくしているのが佳苗なのだから。