20160314




長田秋濤が紅葉館の女中の絹香に目をつけて妾にし、女優としてねじこんだ話をお届けするとお伝えしましたが……と、その前に閑話休題。
丹いね子が在籍していた「東京毎夕新聞」を繰っていたら気になる記事を見つけたので御紹介します。

記事のコーナー名は「覆面記者通信 =奇々怪々!!! 神出鬼没=」。
記者が署名なしでうわさ話や事件の裏側などを記すコラムで、そそるタイトルに違わず中身もなかなか面白い。
今日紹介するのは、大正元年九月三日の「(45)此文字を何と讀む 天下無類の依頼状」。
覆面記者がふとしたことから手に入れた一枚の手紙と一枚の証文が掲載されているのですが、その手紙がすごい。

このてがみは。だれにも。みせないよをにないしよで。よんで。くださいまし。
ねえさん。わたくしは。あなたに。おねがいが。あるのですが。ぜひ。きいて。くださいな。これは。じょをだんではなく。しんけんの。事ですから。あなたが。うんと。いつてくだされば。まいにち一圓宛百圓と。あとで。まとめて。五十圓の。おれいをいたします。その五十圓は。いまから。しょをもんを。いれて。おきます。それから。おねがいと。いふのは。わたくしは。おとこのくせに。おとこのする事が。できない。あわれな。もので。それを。なをすには。きたないものを。百日のあいだつづけて。たべなければ。ならないのですがあたりまいの。おんなのでは。がまんにも。たべられません。あなたのよをな。べつぴんさんのなら。きたない。ものでも。きたないとおもはず。たべられますから。どうぞ。わたくしを。たすけると。おもつて。あなたの。からだから。でるものを。いただかせて。くださいな。おれいには。まいに。もをすとをり。きつと。いたしますから。それから。こんな事が。せけんにしれ。しんぶんにでも。でると。わたくしは。はじを。かかなければ。なりませんから。どうぞ。この事は。ないしよに。しといて。けして。だれにも。はなしなんか。なさらないよをに。おねがい。もをします。それから。もし。あなたが。そんな。きちがい。みたいな事は。いやだと。いつて。わたくしのねがいを。かなへて。くださらないのなら。しかたが。ありませんから。ほかのねえさんのとこへ。いつて。たのんで。みますから。このてがみは。おかへしなすつて。くださいまし。しよをもんの。なまいは。あなたさまが。このねがいを。かなへて。くだすつてから。そのうへで。かきいれます。(総て原文の壗)

約定證
右は今般私儀あなた様にたいし御めいわくのおねがいをいたし候に付そのお禮として日がけにて一圓づつ金百圓をさし上げそのあとにて前記五拾圓もそおいなくさしあげもをすべくかたくお約そくいたし候もし此やくそくをいへんいたし候せつはあなた様のおぼしめしとをりいかなることをなされ候とも決してくじよをもをすまじく候後日のため約定證依って如件

明治四十五年月日 印

そもそもこの手紙がなぜ覆面記者に落手されたのか疑問です。
さすがに道に落ちていたわけではあるまいし、LINE流出ではないけれど、当事者が流したとしか思えません。
差出人が流すはずもなく、とすると残るはもらった女性「ねえさん」か?
「ねえさん」は、美人であり、呼び名から見ても芸者ではないかと予想。
とすると、差出人はお客でしょうか。
それにしてもひらがなだらけの学の無い文面、下手したら死ぬかも知れないような明らかな迷信を信じているところ、そして「しんぶんにでも。でると。わたくしは。はじを。かかなければ。なりませんから。どうぞ。この事は。ないしよに」という最も怖れていることが起こってしまった差出人さんの不幸を思うと涙なしには読めないのであります。
覆面記者は地の文で

『喰べる』といふ以上は、何か固形物、尠くとも形をなしたもので無からねばならぬ。然るに『女の體から出る』といふ特種な注文なのだから、可怪しい。『飲む』といふのならば、それは『女の體から出る』でも解せないでもないが、『喰べる』といふのならば、何も女に限った事はない、男の體からでも出る筈である……。不潔不潔!

とさらに追いつめます。
それにしても「飲むなら女の体から出るものとしてわかる」って、さらっとエグいことを提唱する覆面記者もどうかと思いますよ。