20101107

 おっと、カップルが外から窺っているぞ。
 さしもの俺も俄然、緊張する。
 カップルってのはバイブレーターに於ける上客で、俺の仲間のひとりを買っていったのもそうだった。
 あれは、蒲田に数件しかないホストクラブのなかでも絨毯のすり切れ具合といい、シャンパンコールの物悲しさといい、頭ひとつ抜きん出ているといわれる『クラブ 莉亜王』のナンバー四、豹魔とその太い客が同伴がてらに寄ったときだったっけ。
 あいつ去り際に、入荷して一ヶ月で売れたのは蒲田広しといえども自分くらいだと言ってさかんに尻を捲ってたけど、蒲田が広いか狭いかという議論を置くとしても、プロに買われるなんざうまくないってことはこの業界じゃ常識だ。
 身勝手に決めてかかるわけじゃあないが、ちょっと遊んだらすぐ飽きてもっと目新しくてもっと下品なやつにさっさと鞍替えされる確率が高いからな。
 今頃は、間違えて可燃ゴミの日に出された挙げ句、マンションの自治会長のオバハンに「不燃ゴミは火曜日です!!」と書かれた紙を背負った袋のなかで寂しい余生を送っているかもしれんて。
 ようし、よし、カップルが店内に入って来た。
 第一関門突破。
 二人とも二十代前半だろうか、店内の平均年齢を瞬時に下げた感がある。
 先に立った男は三サイズは大きいと思われるジーンズを、腰骨を通り越して腿の付け根辺りまでずり下げて着用しているが、動いてもずり落ちないのは万人に等しいはずの重力を、はてどう操ったものか。
 彼女の手前、場慣れた態度をとった方が頼もしくうつるのか、むしろとらない方が格好いいのかどちらとも決めかねたまま、しきりと左右に小刻みに揺れながら、何かを指差しては後ろの彼女にネジの一本抜けたような笑顔で話しかけている。
 彼女はと言えば、片手で丸まりそうな小さなキャミソールにショートパンツ、かかとの高いつっかけ様の靴を履いて、半ば男に身を隠すように小股に歩いている。
 肩からかけたメタリックの紙でできた巨大なショップバッグが男の話にうなずく度に揺れ、どうも落ち着かないらしく、B-3の横を通る際には、人間がいると思わなかったのか一瞬ぎょっとなってまたすぐ自制心を取り戻したようだった。

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