さて、今日もそろそろ俺のとっておきの時間がやってきそうだ。
俺の最終的な落ち着き場所、つまり、俺を保有する女の子に思いを馳せるささやかな時間のことだ。
こういった点をことさらに強調するのが野暮なことは百も承知だが、しかし持ち前の謙虚さでもって口にしないでいると慧眼を持って任ずる読者とはいえ忘れられる憂き目に遭うとも限らんのであえて屋上屋を架すと、俺はちょっぴり性的好奇心の強い女の子に所有されるといういわば傑出した宿命を背負っており、その点に於いてはB-3ともここにいる輩とも根本的に違う。
ある日突然女の子がやって来て俺を手に取ってレジに向かったら、その瞬間からB-3と俺は否応無しに筏を二つに分ち、それぞれの櫂を操って違う海を目指して旅立つことになるのだ。
俺がいなくなった後、奴さんがふさぎこんでいる姿が目に浮かぶ。
背中を丸めて赤いポータブルテレビを観ている…のはいつものこととしても、見る人が見れば(さしずめ村山あたりが見れば)意気消沈していることは歴然、憐憫の情に否応なく押し流され、かける言葉を失うだろう。
だが、今そんなことを考えても始まらん。
俺の未来の女の子の話に戻ろう。
例えば俺は、その子が喫茶店でウェイトレスが何か運んで来ても全く無視し、向かいに座った男にバレンタインのお返しに会社の同僚からブランド物の財布をもらった話をするような子じゃなきゃいいがと思う。
そんな風にして話しやめないのは、その話がひどくしたいからというよりも、ただウェイトレスごときに自分の話を邪魔だてされたくないというその一点に尽きるからで、そんな子は俺を手荒に扱った挙げ句にベッドの後ろに落っことして忘れたまま余生を過ごさせ、引っ越すときに発見して古い絨毯と一緒に捨てるに決まってるんだ。
あと、そうだな、明らかに興味のない話題(例えば俺の足の人差し指の第一関節に最近できたタコの話など)を、あたかも国家転覆の謀略をこっそり耳打ちされたかのように目を見開いて聞き、大げさな相槌を打つ子も遠慮したいもんだ。
何を考えているかわからん。
それから、「さしすせそ」の発音がなぜか「sa si su se so」の女もいやだな。
帰国子女であることをにおわせたいのか、平原綾香の聴き過ぎかしらんが、どうにも勘に障る。
気にしないようにすればするほど気になって、終いにはさしすせそしか聞こえなくなる。
そういう子は、感受性と同様、自分自身の手入れも細やかとは思えん。
とはいえ、俺は大抵の女の子は好きだ、ありがたいことに。
つまり、こんな身の上で男の方が好みということになれば目も当てられないわけだから。
俺が好きなタイプは……そうだな、店の従業員を人とも思わないような態度はとらず、過剰な演技もせず、さしすせそを変な発音で言ったりせず……ひとりで公園や映画館やときには定食屋に行ったり、笑うと目がかまぼこ型になったり…突然「あのさ、白熊くんにつむじ二つあるの知ってるよ」なんて言うんだ…それから特別手先が器用というんじゃないが、気が向いたらちょっとしたものを短時間で作ったりして…それが例えば肌触りのいいコットン製の俺専用ポーチだったとしても少しも驚かぬ……いやいや、こっちの想像ははじめたらきりがないんだ、実を言うと。
しかしまあ、有り体に言って、俺専用のポーチにくるまれて休めるなら命とひきかえてもいいと思っている。
俺の究極の幸せはそこだな。
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